ザシュッ! 剣戟が響きわたる。 ゼラムとファナンの中間にある平原で、マグナ達はメルギトス操る傀儡兵の一部隊と遭遇してしまったのだった。 「うぅ……多すぎるわよ」 「ほら、ミニス。ぼやかないの……はぁっ!」 言いながら、ケイナの弓が敵の脳天を射抜く。その手応えを確かめることなく、ケイナは次の標的に狙いを定めていた。戦場で、無駄口をたたく暇などないからだ。 しかしミニスがぼやくのも無理はなかった。敵兵の数はざっとこちらの十倍以上。しかも傀儡兵であるが故に、最後の一兵までもが倒れるまでこちらに向かってくるのだ。 「仕方がないな。……機界の伝承者の名においてネスティが命じる…… 来い! 機竜ゼルゼノン!!」 ネスティが召還したゼルゼノンのバベル・キャノンが、群れていた敵兵達のど真ん中に命中する。半数以上の兵士達が一瞬にして吹き飛んだ。 「ふぅ。助かりましたよ、ネスティさん。てや! あんまり多いときりがないですからねぇ。や!」 パッフェルはおしゃべりを続けながらも確実に敵を打ち倒していく。こんな時でも喋る余裕があるのは、彼女の実力だろう。 ネスティがもう一度ジップフレイムで、近づきつつある敵襲団を殲滅する。 「左の敵は倒し終わったから!」 回り込み、挟み撃ちをしようとしていた兵士達を倒し、マグナが戻ってくる。後ろではレオルドが遅れながらもマグナを追いかけている。マグナは仲間に一言声をかけた後、前線で一人、孤立しがちになりながらも戦っているリューグの元に駆けつけようとした。 そのとき。 「危ないっ、マグナ!!」 今まで気配を隠し、隠れていたのだろう。岩陰から飛び出してきた敵兵の斧が、マグナの後頭部を狙う。 突然の悲鳴。すでに新しい敵へと意識を向けていたマグナは、何が起きているのかとっさには理解できない。 一瞬遅れて振り返ったマグナの瞳に映ったのは、眼前に迫る鋭い刃――ではなく、飛び散る朱とと、倒れゆく背中だった。 「ネ、ス……?」 全身の力が抜けたかのように、へたりと膝をつくマグナ。その視線は一点に集中したまま動かない。力なく倒れる、ネスティに注がれたまま。 「なん、で……なんで、だよ……」 「アルジ殿!?」 甲高い金属音が響く。 またもマグナを狙った凶刃を、今度はレオルドのドリルが止める。 しかし、耳元で発せられた激しい激突音にも、マグナはぴくりとも反応しない。膝歩きでネスティの元まで歩み寄り、その場に座り込んだままだ。 「起きろよ、ネス…… 寝坊は駄目だって、いつもネスが言ってることなんだぞ……? なぁ……起きてくれよ。ネス……ネスぅ……!」 力なく、ネスの頬を揺する。たまらなくなってレオルドは叫んだ。 「シッカリシテクダサイ、アルジ殿!!」 プラーマのサモナイト石を持ったパッフェルは、ネスティが倒れた瞬間、すぐにでも駆けつけようとしたが、敵に阻まれなかなか進めないでいる。 「どきなさいっ!」 それでも、彼女は全速力で走った。一刻も早く、彼の元にたどり着くために。 レオルドの元で、再び響く激突音。マグナを狙った剣を、今度は己が装甲で防いでいる。敵は一人だけではないのだ。いくらレオルドが優秀な機械兵士であっても、次第に押され始めてきてしまう。 それを見たケイナがあわてて援護を行う。だがそれでも、分は悪い。 「てめえ、マグナ! いつまでぼさっとしてやがる!!」 リューグの叫びも、マグナには届いていないようだった。マグナはひたすらに届かない呼びかけを続けるだけだ。そうすればネスティが目覚めると信じているかのように。 「……ほら、ネス。起きないとネスの分の朝食、俺が食べちゃうぞ? し、師範だってきっとびっくりするよ。俺じゃなくて、ネスが寝坊してるなんてさ。……だから」 だがもちろん、その声はネスティには届かない。そして、リューグの声もまた、マグナには。 「くそっ。……おら、てめえらの相手はこっちだって言ってんだよ!!」 リューグはマグナ達の方に流れかけた敵兵を蹴散らす。彼には少しでも多くの兵士を、自らの側につなぎ止めておくことしかできなかった。 「聖母プラーマよ!」 その時ようやくパッフェルが、ネスティの元にたどり着いた。プラーマの癒しの光が倒れ伏したまま動かないネスティの体を包む。 近よって見れば、なおさら傷は深く映る。戦場経験の長いパッフェルにはわかってしまう。このまま助からない可能性も、高いことが。 それでも。 (こんなところで死なせるわけにはいかないの。お願い!) パッフェルの魔力が尽きるまで、プラーマは奇蹟を使い続けた。 その甲斐があったのか、出血は停止し、傷もわずかにしろ塞がったように思えた。だが、顔色は未だ悪く、意識も戻らない。 「ミニス! 急いでギブソンさんのところへ!!」 ギブソンは有能な霊属性の召還師だ。彼なら高位の天使も呼び出せる。 「う、うん。シルヴァーナ、お願い!!」 ミニスが巨大なワイヴァーンを召還する。怪我をしたその体をシルヴァーナの背に運ぼうと、あわててネスティ達に近づく。 「マグナ、手伝ってよ! ネスティを助けたいんでしょ!?」 ミニスがそう言ってマグナの袖をつかむ。マグナがビクリと震えた。 揺らいだ瞳がミニスを、そして倒れ伏したネスティの姿を映す。 「ネスが、起きないんだ。俺、一生懸命起こしてるのに。なんで、なんでかな」 「マグナ、そんなこと言ってる場合じゃ……」 ミニスがとまどったかのように足を止める。一刻も早く、ネスティを運ばなければならないのに。 それでもミニスは小さく小首を振り、とまどいを振り捨てるとマグナに向かってたきつけた。 「しっかりしてよ! ネスティの怪我が見えてないの!?」 その時、どこか虚空をさまよっているようだったマグナの視線が焦点を結んだ。あふれ出す、激情。 「わかってる、知ってるさ! いつもそうだ。俺のせいでいろんな人が傷ついていく!! 俺はっ誰も傷つけたくなんか、誰にも傷ついてなんか欲しくないのに! たくさんの人が俺のせいで死んで、大切な人が俺のせいで傷つくんだ! なんで、なんでなんだよ!!」 「っ……」 ミニスには応えることもできない。ただ、初めて見るその暗い瞳に、飲まれたように立ちつくすだけだ。 「どうしてっ俺じゃないんだ…… いつだって傷つくのは周りの人ばかりで、俺は、今もこうしてのうのうと生きてる。俺が、俺なんかがいるから……!」 「それ以上言うんじゃねぇ!!」 リューグの拳がマグナを打つ。 敵に囲まれ、押されていたリューグは気がつけばマグナ等の元まで戻ってきてしまっていた。 「てめえの周りでどれだけ人が傷ついたか知らねぇけどな、それを選んだのはそいつら自身なんだ! 俺らが傷つこうがなにしようが、自分の選択で、てめえのせいなんて思い上がりなんだよっ」 荒く息をつきマグナを睨みつけたのもつかの間、迫る敵の攻撃にリューグも反撃せざるを得ない。 「はっ。ゆっくり文句を言ってるヒマなんざ、ねえってことかよ!」 「マグナさん。ネスティさんが怪我をしたのはマグナさんを守りたかったからなんですから、そのマグナさんが自分を否定したらネスティさんは浮かばれませんよ?」 パッフェルが銃撃のあいまに、声をかける。限界まで召還術を行使した彼女の疲労は、並大抵ではないだろうがそんなそぶりは少しも見せずに戦い続ける。 「浮かばれるって……そんな縁起でもないこと言わないの! マグナ。後悔するのはできることを全てやってからでも遅くはないでしょう。早くネスティを運びなさい!」 ケイナは少し離れたところから、弓を撃ち続けている。彼女とて、ネスティの負傷に平気でいられたわけではない。しかし仲間を守るために、するべきことを選んだのは彼女の強さだ。 「さ、マグナ。早く乗って!」 ミニスに促されるまま、マグナはネスティを抱え、シルヴァーナの背に乗る。 「お願いね、シルヴァーナ。できるだけ早くネスティをギブソンのところへ!」 翼竜は親友の頼みに応えるように一声ほえると、翼を広げて飛び立った。 「アナタ達の相手なんて、マグナとネスティがいなくたって大丈夫なんだから!」 己を奮い立たせるようにつぶやく。 震え出しそうになる拳を、きつく握りしめて。 「マーンの名においてミニスが命ずる……出てきて、ミミエット!」 亜人の少女が気弾を敵の集団にぶち当てていく。 「これ以上、マグナを心配させたりなんかしないんだから!」 |
流血ネタですのでご注意下さい。この一言が言いたくて書いたですよ(マジです)
マグナの取り乱し方が気に食わず、前編だけで3回くらい一から書き直しました。
でもまだ微妙に気に食ってはいないです。
もっとマグナは強い子って言うか……!! 相手がネスティだったから、そういうことにしておいて下さい。
出てきたメンバーは実際戦闘で使っていた人たちです。7人しかいませんが。
残る一人は入れ替わりが激しいのですが……いちお、ルヴァイド様。
なんで出てこないかって、彼は回復役(として使っている)だから。
でも、ここでルヴァ様が回復してたら何かがおかしいじゃん!?
そんなわけで、多分、ルヴァ様居ます。出てきてないけど。
実はまだ後編書き上がってないのですが……
できるだけ早く仕上げたいと思いますっ