星空の下で



 夜更け。
 人の気配に目を覚まし、外にでる。そこには銀髪の少年がいた。
「眠れないのか、ジーニアス」
 少年が、振り返る。
「……ロイド」
 今にも泣き出しそうな、その表情。
「なんか、あったのか?」
 その言葉に、一瞬だけ驚いたかのように目を見張り、それからゆるゆると首を振った。
「なんでもないよ」
 うつむいたままの言葉。
「なんでもないって……そんな」
 思わず、手を伸ばしていた。今にも消えてしまいそうに思えたから。
 だけれどもその手は、彼を捕まえることはできなかった。
 伸ばされた手をかわすようにすり抜けると、ジーニアスは両手を空に伸ばして言った。
「星がさ、きれいだよね」
「なんだよ急に」
 とまどいながらも、つられて空を仰ぐ。満天の星空。吸い込まれそうなほど高く、まぶしいほどの瞬き。
「手を伸ばせば届きそうに見えるのに、どうあがいたって全然届かないんだよね」
 ジーニアスはそうつぶやいて、ゆっくりと両手をおろす。届かない星をあきらめたかのように。届かない距離に打ちのめされたかのように。
「そんなことないだろ。星を手にする方法だって、探せばきっとどこかにあるさ」
 そんな姿を見ていたくなくて。思わず口にしていた。
 あきらめたら、そこで終わりだけれど、あきらめなければ道は続くと。
 思いを込めて、言葉を紡ぐ。
「ロイドらしいや」
 振り向いて笑った顔は、壊れそうなほどにきれいで、胸が、張り裂けそうに痛む。
 その笑顔を守りたくて、大切にしたくて――失いたくなくて。
 その、小さな体を、きつくきつく抱きしめる。
「ロイ、ド?」
「星がほしいなら、俺が方法を探すから。どんなに途方もないことだって、俺はあきらめないから。だから……だからさ、言ってくれよ、なんでも」
 もうこれ以上、泣けない笑顔を見たくはないから。そのためにはどんなことだってできる、と思う。
「……星なんか、いらないよ」
 どこかあきれたような声の響き。だけどその声は暖かくて、いつもの彼らしさが戻ってきたような気がした。
「じゃあ、なにがほしいんだ?」
「それは……」
 とたんに、言葉に詰まる。
「言ってくれよ。もう、俺の知らないところで誰かが傷つくのはいやなんだ。それがジーニアスなら、なおさらだよ」
「ロイド……」
 言葉だけじゃ、想いを伝えきれなくて。今度は労るように、やさしく抱き締め直してキスをする。
「んっ……」
 真っ赤になった顔に、愛しさがこみ上げてきて耳元でささやいた。
「俺は、ジーニアスを愛してるから」
 ジーニアスは真っ赤になった表情を見られないように、顔をロイドの胸に押しつける。
「ボクも……ロイドが大好きだよ」
 小さくくぐもった声は、それでもロイドの耳に届いた。
 しばらく押し黙った跡、覚悟が決まったのかジーニアスは顔を上げる。
「ロイドがいなくなったときのことを考えてたんだ」
「俺が?」
 ジーニアスは小さく頷くと続けた。
「ロイドは人間だから、いつか死んじゃうでしょ。その先のことを考えてた。ロイドが死んじゃったら、ボクはどうすればいいんだろうって」
 独り、取り残されることの孤独におびえながら。
「ずっと……一緒にいられたらいいのに」
 そのつぶやきが、彼の願いの全てで。
 どんなことだって叶えたいと、思ったのに。
「天使になって、ずっと側にいようか?」
「冗談でしょ!?」
 驚愕の声があがる。
 天使になるコレットが、どれだけ苦しんだのか。そのためのエクスフィアが、何から作られたのか。
 それを知っているロイドが、そんなことを言うとは思えなかったから。
「もちろん冗談だよ。……お前の願いを叶えるための方法は、俺にはそれしか思いつかない。だけど、そんな風にして一緒に生きたって、いつか悲しい思いをするだけだ」
「……うん」
 共に生きられるなら。それを望まない訳じゃない。だけど、それでも。
 犯してはならない、領域はあるから。
「お前の言ったとおり、俺はいつか死ぬし、その先にお前がどうするのか決めることもできない。だけど、俺はジーニアスに生きていてほしいよ。ずっと、生きていてほしい」
「一人っきりで?」
「俺がいるだろ?」
 ジーニアスはあきれながら、ロイドを見上げる。
「ロイドがいなくなった後の話をしてるんでしょ!」
「俺は死んでもジーニアスの側にいるよ」
 ずっと、側に、いる。
 その言葉に、ジーニアスは一瞬虚をつかれたような顔をしたが、最後には小さく頷いた。
「……うん。ボク、ロイドのこと忘れないよ」
 遠く離れても、たとえ死んでも。思い出がある限り、心は側にいるから。
「ああ。そのころまでには、ハーフエルフだって、胸を張って暮らせる世界にしておくよ」
「……約束だよ」
 見上げる瞳。
「ああ、必ず。お前が笑って暮らせる世界を作るよ」
「そっちじゃないよ。……ずっと、一緒にいるってこと」
 ジーニアスは赤くなった顔を、それでもそらさずにロイドを見つめ。
 ロイドは、少しだけ驚いた後、笑った。ジーニアスが一番大好きな笑顔で。
「約束だ。これから先、どんなことがあっても、ジーニアスの側にいるよ」
「ボクも。ずっとロイドから、離れないからね」
 そうして2人は、もう一度口づけを交わした。


upする気はなかったんです!!
ロイジニ祭に合わせる為、クリア前に書いたので……
だだだ、だって実際はロイド、エンディングで○○化(ネタバレのため伏せ字。でもバレバレ?)しちゃったじゃん!
エンディング見た時はマジで悲鳴を上げました。
もう送ってしまったのに! と。
書き直そうと思ったんです、その辺。
でも、一部書き直したら、その後も全部書き直さなきゃいけないような気がしたし。
今までであり得ないぐらい甘いので、ぶっちゃけupするのも恥ずかしかったんですよ!
でも、もう出すものがないよぅ。
そんなわけで、つっこみはなしの方向で。
本当なら、永久にお蔵入りの予定だったのに……


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