世界と、そこで生きること



 見上げれば、空はどこまでも高かった。
 寝ころんで地面と接した背中から、土のぬくもりを感じる。
 中空に浮かぶ譜石帯は、手を伸ばしても届かないほど遠く。
 目を閉じれば、鳥や獣の鳴き声、草木のざわめきが大きく聞こえる。
(俺は、こんなにもちっぽけだ)
 世界に対して、俺の存在はどこまでも小さくて。だけど同時に、俺はこの限りなく広い世界の一部なのだと感じる。
 世界はずっと、当たり前のようにそこにあった。俺が、この世に生を受けた時から変わらずに。……受ける前も、きっと変わらずに。
 そんなことにすら、俺は今までずっと気づかずにいたんだ。

 その上俺は、この世界に生きる人達をゆがめてしまったことすら、知らずに生きてきてしまった。
 父上、母上、ナタリア、ガイ、屋敷のみんな、そして……アッシュ。
 俺たちレプリカは、正しくない生まれ方をしてきている。オリジナルを危険にさらして、そうして生まれたのに劣化品でしかなくて。
 アッシュを思えば胸が苦しくなる。アイツのいるべき場所に俺はずっと居座って。なのに俺は、アイツに比べて何一つまともにできなくて。
 アイツが俺のこと憎むのは当たり前で。なのに俺はあいつに返せるものが何もなくて。
 生まれてきてしまったこと自体が間違いだったのだと、……思う。

 その時、ゆっくりと地を踏む足音が聞こえた。

 だけどそれでも。たとえ俺の存在がどれだけ間違っていたとしても。
「ルーク、こんなとこにいたのか」
 ずっと、俺が生まれてからずっと傍にいてくれた声が聞こえるから。俺が偽物でも、その名を呼んでくれるから。
「黙っていなくなるなよ。みんな心配してたぞ」
 困ったように笑って、いつだって俺に居場所をくれて。
「ごめんごめん! 気持ちがいいからつい……」
「確かに。いい天気だよなぁ」
 ガイが笑い、俺の隣に横になる。
「急ぐわけでもないし、たまにはのんびりするのも悪くないか」
 隣に感じるぬくもり。
 ガイ、俺は


   ……生まれてきて、よかったよ。






タイトルが長い割に超短編でした。
書きたかったことが途中で変わって中途半端。
H18.9.18


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