君と居た日



「………ナ…………グナ…………」
 心地よいまどろみのなか、聞こええてくる声。
 それは、とても大切で、誰よりも近くにいた人の声。
「おい、マグナ! いい加減に起きるんだ」
「……ん〜。あれぇ、ネス?」
 目を開けるとそこには、旅の始めからずっと一緒だった兄弟子がいた。
「一体いつまで寝てる気だったんだ? いくら休みだからって、寝過ぎだぞ、君は」
「ネス、だよな?」
 予想通り怪訝そうにひそめられる眉。でも、なぜか確認せずにはいられなかった。
 ――胸に残る、不安があるから。
「あたりまえだろう。他の誰に見えるって言うんだ」
「ええっと……ネス?」
 確かに他の誰にも見えなくて、仕方ないからそう言った。
「なら聞くんじゃない」
 まったく、君はバカか、と言うつぶやきに、ここにいるのはまぎれもない兄弟子だと実感する。
「へへ……良かった、ネスだ」
 あふれてくる喜び。変わりない人がそこにいると言うことのうれしさ。
 マグナはベットに横たわったまま、ネスティに抱きついた。
「な……っ、何をしてるんだ、マグナ」
「ここに、いるんだよな。ずっと、一緒で……」
 存在を確認するように、ぽふぽふと、兄弟子の背中をたたく。
「……何が言いたいんだ?」
「ん。なんだろう。夢だったのかな。なんか、ネスがいなくなっちゃてた様な気がしてさ」
「僕はずっと君と一緒にいただろう。それよりも、君がいつまでも起きてこないから、僕の方が君がいなくなったかと心配したよ」
「う……ごめん」
「ほら、さっさと行くぞ。アメルが一応食事をとっておいてくれているんだ。他の人の分は片づけ終わったというのにな」
「あわわ。わかった、急いで着替えるよ!」
「早くするんだぞ。僕は先に行っているからな」
 閉まるドア。
「あ! ネス……っ」
 離れることに、不安を感じる。たったドア一枚分でも。
 呼び止める声は聞こえなかったのか、戻ってくる様子はない。
 慌てて廊下を覗いても、もはや立ち去った後だった。
 さっきまでそこにいたという気配も、感じられない。
 だけど、きっとご飯とともに待っていてくれるから。急いで着替えて、後を追った。



「何をぼーっとしているんだ?」
 ふと、気づくと隣に兄弟子がいる。
「ネス、いつのまに?」
「? さっきからずっと一緒にいたじゃないか。早く買い物を終えて帰ろう」
 そうだった。俺とネスは買い出しに来てて……。
「あれ? なにを買いに来たんだっけ」
「君はバカか!? どうして買い出しのメモを持ちながらそう言うことが言えるんだ」
「あ、あれ? ホントだ」
 手にはいつの間にか、メモ用紙が握られていた。アメルの字で、夕飯の材料が細かく書いてある。
「まったく……。君に任せていたらいつまでたっても終わらないな。僕は野菜を買ってくる。君はそこでお茶を買っておくんだ」
 それくらいはやってくれ、そう言い置いて、兄弟子は雑踏に消える。
「あ……ネス、メモ!」
 ほんの一瞬視線を落としただけなのに、見えなくなっている背中。
「覚えて、るのかな。だけど……」
 どうしようもなく不安を感じる。理由のない焦りが、追いかけなければと言っていた。
 人をかき分け、進む。
「ネス、ネス! 待ってよ!」
 行けども行けども、姿は見えない。不安とともに大きくなる声。
 だけど、その声に立ち止まる人はいなくて。
 ムキになって探し回る姿に、君は何をやっているんだ、と言ってくれる人もいない。
 走って、走って。いつの間にか人の姿さえ見えなくなっていた。
 目の前に、大木がそびえている。
「ゼラムに、こんなとこあったっけ……?」
 近づきたいような、離れたいような。

――――ナ!

 とてもよく知っている気がするのに、触れるのが怖い。

――――――――――グナ!

 呼ぶ声に、答えるのが怖い。
「ネス……」
「僕はここにいるよ、マグナ」
 いつのまにか、大木の前に兄弟子が立っていた。
「ネス!」
 思わず駆け寄る。飛びつこうと思うとその姿は空に消え、そこにあるのは聖なる、大樹。

――――――――――――――――マグナ!

 そして、全てを、思い出す。


「……アメル」
 目覚めると心配そうに顔をのぞき込んでいる姿があった。
「目が、覚めましたか? 起こしちゃ悪いと思ったんですけど、うなされているみたいでしたし。それに、そろそろ寒くなりますから」
 ここは、機械遺跡のあった場所で。戦いは、終わっていて。
「……ネスティの、夢を見ていたんですか?」
 ネスは、メルギトスの放った原罪を止めるために……
「……うん。でも、悪い夢じゃ、なかったと思うよ」
 心配しているアメルのために、笑う。
 悪い夢じゃなかったと思うのは嘘じゃない。あのころのネス、そのままに会えたのだから。
 笑って、話をして、しかられた。
 ……だから、悪い夢じゃなかった。
「なら、良かったです。……でも、そろそろ戻らないと、風邪を引いちゃいますよ」
「うん、帰ろうか」
 アメルと共に歩き出す。
 少し離れて振り向いた。
「ネス……また、明日、な」
 大樹は変わらぬ姿でそこにそびえていた。


初のサモンナイト小説です。まともな版権物はものすごく久しぶり。
(前に書いたのは、半分以上オリジナル。オリジナルのキャラが主役張ってましたから)
あんまり、書きたいことがうまくかけなくて残念です。
書きたかったのは、ネスティ(木)に抱かれて眠るマグナ。
そこで見る幸せな夢。起きた後の喪失感。
そんな感じのを書きたかったんですけど……最初から間違えてます。
とりあえず、夢オチ。そこだけはクリアかな。
誰かまともなネスティ(木)に抱かれて眠るマグナを書いてください……


と言っていたら!
音井千沙氏が描いてくれました!!
ネスティ(木)に抱かれて眠るマグナの美麗イラストはこちら!!


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