読書感想文。 どうしてそんな物があるのだろう。本を読んで感想を書けだなんてことに、一体どんな意味があるというのか。本を読んで感動したとしても、言葉で言い表せるような感動なんて大したことはないんだ。だから、おもしろかった本の感想なんて書けっこないのだ。もちろん、つまらなかったのなら、なおさら。 だいたい、僕は国語の授業にだって疑問を持っている。この部分は主人公のどんな心情を表しているかとか、登場人物の行動の意味とか。本当に作者の意図に沿っていると言えるのか。おまえらインタビューでもしたのかもう死んだやつだっているのに、とか言ってやりたくなる。 どうせ本の中の人間の気持ちが分かったって、現実の人間の気持ちなんてわかりやしないんだ。そんなことに意味なんかない。 だいたい、ただの作文だって僕は苦手なのに。 まぁ、とにかく。僕は読書感想文なんてものの存在に疑問を持っている。 いや、教師の意図は分かっている。僕らに本を読ませたいだけなのだ。だけど、夏休みに一冊読んだからといって何の意味があるんだろう。だいたい、教師だって実際に本を読んでいるのか疑問だ。 ……そういえば、本の指定なんかないんだから、実際に本を読まなくても適当にでっちあげて感想を書けるんだよな。僕は(自分で言うのも何だが)真面目な生徒だからやらないけど。そう、真面目なやつは本が好きなんてのは大間違いだとも言ってやりたい。 真面目な生徒なんてのは、成績のためにルールを乱す行動を取らないだけで、いい子な訳ではないのだ。そんなの大人の前だけなんだよ。 ええと、話がそれたけど読書感想文。 どんなにイヤでもやらなくてはいけない。宿題だから。 だからどんなにイヤでも本を読まなくてはいけない。宿題だから。 でも本なんて漫画くらいしかもっていないから図書館に来たわけだ。(ああ、でも漫画で感想書いてやろうかな漫画にだって名作はあるんだから漫画をバカにするのは間違っていると思うけどやっぱり怖いからやめておこう) 図書館に来るなんて久しぶり……というよりもしかして初めてなんじゃないだろうか。いや、生活の時間とやらで来たような気がする。あんまり昔のことで忘れたが。(僕は昨日のことだって覚えていない。真面目とは言ったが頭が良いとは言ってないし) 案内板を見て児童書のコーナーを探す。 入って左の……ここか。 たくさんありすぎて何がおもしろいのかわからない。推薦図書とか言うのはあったけど、推薦されると読みたくなくなるのは僕だけだろうか。まあ、どれが推薦図書だとか覚えてないけど。 どれでも良いから適当に読んでみるか。どうせどれも同じような物なんだから何を読んでも変わらないかも知れない。 というわけで近くにあった白っぽい本を読んでみる。 ええと……? とても寒い地方に、白い白い雪の降る町がありました。冬になれば、雪が町を覆い尽くし、訪れる人がほとんどいなくなってしまう、そんな町でした。 少年は宅配屋でした。冬の間は、そんな町に手紙や荷物を運ぶのが少年の仕事でした。 ある時少年が荷物を届けに行くと、届け先の人が留守をしていました。 これはとても大事な物だから、直接本人に届けてくれと頼まれています。だけど、今すぐ町を出なければ雪の原で夜を迎えることになってしまうでしょう。 少年は悩みました。町で宿を取るお金はないのです。街道なら、少年の知り合いで安く泊めてくれるところを知っています。だけどこの町には知り合いはいません。 少年のお父さんはずっと前に亡くなっていて、病気のお母さんと幼い妹が少年のことを待っているのです。無駄なお金を使うわけにはいきません。 雪の町への宅配は料金も高く、大事な仕事です。だけどこの町で野宿をしたら死んでしまうでしょう。 少年は悩みました。悩んで、お金の代わりに働くことで泊めてくれる宿を探すことにしました。 ある宿に入ったとき、とても綺麗な歌声が聞こえてきました。そこでは酒場も経営していて、宿の娘がお客さんのために歌を歌っていたのです。その歌声は初めて聞いたはずなのにどこか聞き覚えのある懐かしい歌声でした。 歌い終わってお客さん達が大きな拍手をしました。少年も大きな拍手をしました。思わず、宿のことを訪ねるのを忘れて聞き惚れていたのです。 お客さんに囲まれていた宿の娘が少年の方にやってきました。 「宿にお泊ま」 りですか。訪ねようとした娘が、少年の顔を見てひどく驚いたものになります。少年もその時初めてはっきりと娘の顔を見て驚きました。初めて会うのです。だけどひどく懐かしく、良く知っている気がするのです。 「リィディス!」 少年は思わず叫びました。自分でもなんのことだかわかりません。だけどどこかで聞いたことがあるような、良く知っている言葉のような気がしました。 そして自分の口から出た言葉を聞いた瞬間、激しい頭痛が少年を襲いました。忘れていた何かを思いだしたような気がするのに、頭が痛くて何も考えられません。 気がつくと娘も頭を抱えています。そんな娘を見ている内に、頭痛はどんどんひどくなっていきます。最後に娘の倒れる音を聞いたと思った瞬間、少年もまた意識を失っていました。 ……… ……………… ………………………つまらない。 だいたい、病気の母と幼い妹ってなんだ。余りにもベタじゃないだろうか。本当に少年一人の稼ぎで一家は食べていけるのか。無理がある設定なんじゃないだろうか。 こんなベタな話しがおもしろいわけがない。こういう話はマッチ売りの少女だけで十分なのだ。 こんなベタベタな本は最後まで読んでもつまらないに違いない。 違う本にしよう。全く時間の無駄だった。 今度は水色の本にすることにした。 神央家は日本国に代々続く名家である。一般にその存在は知られていないが、今もなお強大な資産を持ち、日本国経済を陰から支配していると言っても良い。 神央グループのネットワークは広大であり、ありとあらゆる産業に係わっている。 そんな神央グループのトップである神央家当主はまだ若く、二十歳になったばかりの青年である。名を神央希之祐という。 彼は幼い頃からの教育のかいもあり、当主としてめざましい才能を見せている。 しかし、日本国の陰の支配者であるというその身は、常に敵にねらわれる存在であった。 そしてその神央家当主を代々守ってきたのが剣家と楯家である。楯家は当主の身を守り、剣家は当主の敵を切る。 そうやって神央家はずっと日本国の頂上に鎮座していたのである。 ところで神央希之祐は変わり者であった。神央家の存在が世間に知れてないことを良いことに、普通に大学に通い、普通に学生生活を楽しんでいた。 迷惑を被ったのはもちろん護衛の一族である剣家と楯家だ。仕方ないので年の近い腕の立つものをその大学に送り込むことにした。剣籐刃と楯硬志の二人を筆頭とした両家の若手達である。 しかし問題は、彼らもまた一筋縄でいかない性格の持ち主だったことである。 「とうはちん。俺暇ですよー」 「黙れクズ。希之祐様のそばに付いていろ、この役立たず」 剣籐刃は長い黒髪の美少女である。しかし口からは暴言しか出ない。 「でもとうはちん。俺あの授業わからんのですよ。あの教授なにしゃべってんの? 日本国語?」 対して、楯硬志は一見頭の悪い若者といった風体である。そして実際、あまり頭が良くない。 「貴様は講義を聴く価値もない。仕事をしろ馬鹿」 「やだよぅ、めんどくさい。仕事するよりこうやってとうはちんとしゃべってる方が楽しいもーん」 そして硬志は面倒くさがり屋でもある。現在も護衛の任があるというのに、当主のいる教室から離れている。もちろん他の護衛がそばについてはいるのだが。 「一度死ね。貴様がなんのために生きているのか考え直せ」 「えー? そんなの恋をするために決まってるんじゃんか! というわけで青春しようぜぃ、とうはちん」 「……」 ……… ……………… ………………………なんだこれは。 なんだよ陰の支配者って。なんだよ敵にねらわれるって。 おまえらどこの世界の住人だよああ日本国かそうですか。 なんかものすごくいろいろな意味で、精神に打撃を食らった気がする。これほんとに児童書かよ。絶対間違ってるよ。 こんな本を読む自分なんて嫌いになりそうだ、別の本にしよう。 ……今度こそまともな本であってくれよ? ここから遙か遠くに広がる世界。そこは竜が支配する世界でした。 竜は強大で大きな力を持っていましたが、自らのなわばりから出ることはせずおだやかに暮らしていました。 人はそんな力と知恵を持つ竜を尊敬し、彼らにつかえながら生きていました。 竜もこの小さく弱い隣人を大切にし、人間が災害などで困ったときは手助けをしてやりました。 こうして竜と人はとても仲良く暮らしていました。 人は世界に多く住んでいましたが、ほとんどの竜は人の入ることができない険しい山や深い森、暗い海の底などに住んでいました。だから人が目にするのは竜にしては小柄な、人より一回り大きいくらいのキルトスという種類の亜竜だけでした。 キルトスは他の竜と違い言葉を持たない種族でしたが、人間が頼めば食べ物と引き替えにその背に乗せてくれました。 世界には四体の竜王と呼ばれる強大な竜がいて、他の竜達は皆、その竜の言うことを聞きました。 また人間の中にも竜の血を引くと言われる一族が四つあり、それぞれ別の竜王につかえる神官の一族として人々にあがめられていました。 お話は風の竜王ベルダーシュにつかえる神官の一族の娘、フウカが一族の里を出るところから始まります。 「それじゃあ身体に気をつけて」 「わかってるわよ、大丈夫。見聞の旅なんて言ったって、町の方でしばらく暮らしていればいいだけでしょう? 心配しなくたって平気よ」 「でも、おまえは無茶をすることがあるからね。ゆくゆくは神官長になる大事な身だ。くれぐれも気をつけるんだよ」 「はいはい。おしとやかじゃなくて悪かったわね。そんなに心配ならフウマに跡を継がせればいいじゃない。あの子なら安心でしょ」 「跡継ぎは先に生まれた方と決まっているんだよ」 「……じゃあ、あたしの身に何かあった方が良いわね。そしたら問題なくあの子が跡を継げるもの」 「フウカ!」 「……冗談よ。馬鹿なことはしない、無事に帰ってきます」 「たちの悪い冗談は言うものじゃないよ」 「悪かったわ、ごめんなさい」 「わかれば良いんだ。それでは本当に気をつけて」 「うん。行ってきます」 そうして彼女は旅立ちました。この先に何が待っているのか知らないまま。兄と慕っていた従兄と会うのもこれが最後であることも知らず、彼女は旅立ちました。二度と帰ることが出来ない故郷から…… ……… ……………… ………………………長っ! これで序章かよこれが序章かよ。なんかめちゃくちゃ長そうじゃないか。よく見たら一巻とか書いてあるし。なんだよこれ続き物かよ! たいしておもしろくもないのに長々と続けるなよ。竜なんてどうでも良いんだよ。だいたい竜が支配するとか言って、たいした支配してないじゃないか。 ったく。ろくな本がないじゃないか図書館! ああもう閉館時間だし。 また明日もこなきゃいけないのか。本当に面倒だ。……やっぱりでっち上げようかな。いやいや、そんなことしてばれたときどうするんだ。 ああもう本当に。だから僕は読書感想文なんて嫌いなんだ。 僕がもし教師になることがあったら、絶対生徒にこんな宿題なんか出さないと心に誓って僕は図書館を後にした。 |
この語り部、少年A。
思考回路が緑華に似てるので、書いていてめちゃくちゃ楽しかったです。
間の話とか練る時間が無くて、適当でかなり恥ずかしいものになったけど
彼がつっこんでくれたからもういいや。
この人、またどっかで使いたいなぁ……
でも、嫌われるタイプのような気がする。
実際にいたら確実に嫌われる人だね。……って私もか!?