走る         H16.7.4


「あたし、走るの嫌い」

「俺は好きだなー」

「そおね。あんたは好きかもね」

「おお。わかってくださいますか!」

「うん。だって毎日走って登校してくるじゃない」

「……」

「飽きもせずよくやるわよ」

「……いや、それは単に寝坊しているだけで」

「尊敬するわ、ホント」

「俺だって歩いてこれるなら、歩いてきてるんだけど」

「あたしには真似できないわね」

「……」

「まぁ、真似したくもないけど」

「……きみ、人の話聞いてないでしょ?」

「だって、聞くべき話なんて誰もしてなかったし」

「うわ、ひでー……」

「なにが?」

「……」

「……」

「まぁ、それはそれとしても」

「……珍しく引き際が良いわね」

「へへん。こっちには切り札があるのだよ! きみ、走るの嫌いって言ったけど、走るのを見るのは好きだろ?」

「別に特に好きじゃないけど……そおね、嫌いじゃないわね。でも、それのどこが切り札なのよ」

「ほほう。特に好きじゃない。でも俺は知っているのだよ。きみが時々じっと陸上部の練習風景を見ていることを!!」

「……!!」

「走るのを見るのが好きじゃないなら、一体何を見ていたのかなー?」

「……べ、別に嫌いじゃないんだって言ってるじゃない」

「ふっふっふ。何を見ていたか当ててしんぜよう。ずばり! 陸上部部長にして、そのさわやかな笑顔と細やかな気配りで、後輩からも人気の高い石田先輩だろ!?」

「………!」

「どうだ! 当たっただろ?」

「……………」

「正直に言っちゃえよ。協力してやるからさ」

「…………………」

「別に言いふらしたりはしないからさー。さすがの俺もそこまではしないよ。信用無いのか?」

「…………………………だれ?」

「えっ?」

「いや、石田先輩って誰よ」

「ええっ?」

「そんな人知らないんだけど」

「いやほら背の高い、足の速い人だよー。走るフォームがすっげぇきれいなの」

「………?」

「わかんないのー!?」

「……だって。陸上部員なんて、あんた以外全員背が高いじゃない。走るの速いのだってそうだし。フォームなんて詳しくないからわからないわよ」

「うわー。チビなの気にしてるのにっ!」

「事実だからしょうがないわね」

「ええー。ホントに石田先輩わかんないの?」

「さっぱり」

「うわー。違うのかー。なんだー」

「なんでそんな風に思ったのよ」

「いやあ、だってさ? 先輩が、時々練習見てる子がいるって言うからさ。確かめてみたら、きみなんだもん。知り合いですよって言ったら、名前聞かれてさー。先輩はきみに気があると見たね!」

「……そんなこと言われてもね。だいたいそれじゃあ、あたしがその先輩を好きってことには、ならないじゃない」

「んー。でもそしたら両想いで万々歳じゃないか!」

「…………」

「先輩いい人だし、きみもなんだかんだ言って、いいヤツだし。二人がくっつくのって良いかなって思ったんだよ」

「……でも、あたしにとっては顔もわからない人だから」

「これからわかれば良いんだよ! いい人なのは俺が保証するからさ」

「その先輩の意志だって、ちゃんと確かめた訳じゃないでしょ。勘違いだったら、ものすごく恥ずかしいことになるわよ」

「ううっ。いや、でもー」

「それにあたしの意志だってあるでしょ」

「うー、ダメ?」

「当たり前よ」

「……じゃあ、なんでうちの部の練習なんて見てたのさ」

「何となく外を見たら、練習してただけでしょ」

「誰かを見てたんじゃないのかー」

「陸上部なんて知ってる人いないもの」

「そうだよなー。きみ、交友範囲、狭いもんなー」

「余計なお世話よ」

「でもさ。先輩の話だと、かなり長い間こっち見てたってことだけど?」

「……暇で悪かったわね」

「いやそう言うことじゃなくて。何かあって見てたんじゃないの?」

「……さあね」

「実は、走りたいとか」

「それはないわ」

「走ってるのを見るのが好き」

「それもないわね」

「じゃあ、やっぱり誰かを見てたとか」

「………」

「言ってみろよ。先輩じゃなくても協力するって」

「……だから。あたし、あんた以外の陸上部員なんて見分けつかないのよ? ただでさえ人の顔覚えないのに、遠くから見てるんだもの。誰が誰だかわからないわよ」

「うーん……。じゃあ、俺を見てたとか!」

「………!」

「なーんてな! さすがにそれはないだろうけど」

「…………」

「…………」

「…………」

「……ない、よな」

「…………」

「え? ええ?」

「……………………ふふっ」

「は?」

「っぷ。あはははは!」

「な、なんだよ」

「何、あせってるのよ。あはは」

「だー! からかったな?」

「だってまさか、引っかかるとは、くくっ」

「俺の純粋な心をもてあそびやがって!」

「だってお互い様だもの」
――あたしの心だって知らぬ顔でもてあそんでるくせに

「え?」

「……し・つ・こ・いってことよ」
――そんなこと、絶対に教えてやらないけど

「え、あー。だって、やー。……ごめん」

「わかればよろしい。さ、帰りましょ?」
――隣にいられるだけで、幸せだから

「よし! 今日は詫びを込めて俺が奢っちゃろう」

「……めずらしい。雨でも降るんじゃないかしら」
――いまはまだ、このまま

「なんだとぅ!」

「冗談だってば」
――笑い会える二人のままで――



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これ、書き上げる前にいくつ没にしたことか……
あんまり、お題に関係ないし!
「走る」という単語から思いついたままに書き始め
そのままむりやりに進めた結果ですね。
それでも、ほかの作品よりマシだったという……
どれだけほかの作品がダメだったんだか。