「あたし、走るの嫌い」
「俺は好きだなー」
「そおね。あんたは好きかもね」
「おお。わかってくださいますか!」
「うん。だって毎日走って登校してくるじゃない」
「……」
「飽きもせずよくやるわよ」
「……いや、それは単に寝坊しているだけで」
「尊敬するわ、ホント」
「俺だって歩いてこれるなら、歩いてきてるんだけど」
「あたしには真似できないわね」
「……」
「まぁ、真似したくもないけど」
「……きみ、人の話聞いてないでしょ?」
「だって、聞くべき話なんて誰もしてなかったし」
「うわ、ひでー……」
「なにが?」
「……」
「……」
「まぁ、それはそれとしても」
「……珍しく引き際が良いわね」
「へへん。こっちには切り札があるのだよ! きみ、走るの嫌いって言ったけど、走るのを見るのは好きだろ?」
「別に特に好きじゃないけど……そおね、嫌いじゃないわね。でも、それのどこが切り札なのよ」
「ほほう。特に好きじゃない。でも俺は知っているのだよ。きみが時々じっと陸上部の練習風景を見ていることを!!」
「……!!」
「走るのを見るのが好きじゃないなら、一体何を見ていたのかなー?」
「……べ、別に嫌いじゃないんだって言ってるじゃない」
「ふっふっふ。何を見ていたか当ててしんぜよう。ずばり! 陸上部部長にして、そのさわやかな笑顔と細やかな気配りで、後輩からも人気の高い石田先輩だろ!?」
「………!」
「どうだ! 当たっただろ?」
「……………」
「正直に言っちゃえよ。協力してやるからさ」
「…………………」
「別に言いふらしたりはしないからさー。さすがの俺もそこまではしないよ。信用無いのか?」
「…………………………だれ?」
「えっ?」
「いや、石田先輩って誰よ」
「ええっ?」
「そんな人知らないんだけど」
「いやほら背の高い、足の速い人だよー。走るフォームがすっげぇきれいなの」
「………?」
「わかんないのー!?」
「……だって。陸上部員なんて、あんた以外全員背が高いじゃない。走るの速いのだってそうだし。フォームなんて詳しくないからわからないわよ」
「うわー。チビなの気にしてるのにっ!」
「事実だからしょうがないわね」
「ええー。ホントに石田先輩わかんないの?」
「さっぱり」
「うわー。違うのかー。なんだー」
「なんでそんな風に思ったのよ」
「いやあ、だってさ? 先輩が、時々練習見てる子がいるって言うからさ。確かめてみたら、きみなんだもん。知り合いですよって言ったら、名前聞かれてさー。先輩はきみに気があると見たね!」
「……そんなこと言われてもね。だいたいそれじゃあ、あたしがその先輩を好きってことには、ならないじゃない」
「んー。でもそしたら両想いで万々歳じゃないか!」
「…………」
「先輩いい人だし、きみもなんだかんだ言って、いいヤツだし。二人がくっつくのって良いかなって思ったんだよ」
「……でも、あたしにとっては顔もわからない人だから」
「これからわかれば良いんだよ! いい人なのは俺が保証するからさ」
「その先輩の意志だって、ちゃんと確かめた訳じゃないでしょ。勘違いだったら、ものすごく恥ずかしいことになるわよ」
「ううっ。いや、でもー」
「それにあたしの意志だってあるでしょ」
「うー、ダメ?」
「当たり前よ」
「……じゃあ、なんでうちの部の練習なんて見てたのさ」
「何となく外を見たら、練習してただけでしょ」
「誰かを見てたんじゃないのかー」
「陸上部なんて知ってる人いないもの」
「そうだよなー。きみ、交友範囲、狭いもんなー」
「余計なお世話よ」
「でもさ。先輩の話だと、かなり長い間こっち見てたってことだけど?」
「……暇で悪かったわね」
「いやそう言うことじゃなくて。何かあって見てたんじゃないの?」
「……さあね」
「実は、走りたいとか」
「それはないわ」
「走ってるのを見るのが好き」
「それもないわね」
「じゃあ、やっぱり誰かを見てたとか」
「………」
「言ってみろよ。先輩じゃなくても協力するって」
「……だから。あたし、あんた以外の陸上部員なんて見分けつかないのよ? ただでさえ人の顔覚えないのに、遠くから見てるんだもの。誰が誰だかわからないわよ」
「うーん……。じゃあ、俺を見てたとか!」
「………!」
「なーんてな! さすがにそれはないだろうけど」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ない、よな」
「…………」
「え? ええ?」
「……………………ふふっ」
「は?」
「っぷ。あはははは!」
「な、なんだよ」
「何、あせってるのよ。あはは」
「だー! からかったな?」
「だってまさか、引っかかるとは、くくっ」
「俺の純粋な心をもてあそびやがって!」
「だってお互い様だもの」
――あたしの心だって知らぬ顔でもてあそんでるくせに
「え?」
「……し・つ・こ・いってことよ」
――そんなこと、絶対に教えてやらないけど
「え、あー。だって、やー。……ごめん」
「わかればよろしい。さ、帰りましょ?」
――隣にいられるだけで、幸せだから
「よし! 今日は詫びを込めて俺が奢っちゃろう」
「……めずらしい。雨でも降るんじゃないかしら」
――いまはまだ、このまま
「なんだとぅ!」
「冗談だってば」
――笑い会える二人のままで――
これ、書き上げる前にいくつ没にしたことか……
あんまり、お題に関係ないし!
「走る」という単語から思いついたままに書き始め
そのままむりやりに進めた結果ですね。
それでも、ほかの作品よりマシだったという……
どれだけほかの作品がダメだったんだか。