「あ、あのっ。傘、傘忘れましたよ!!」 とっさに電車を飛び降りる。白いワンピースの後ろ姿を求めて。 紛れる人混みの向こうに、白い影が見えた気がした。 「すいません、通してくださいっ」 今にも人混みの向こうに消えそうになる、白色。 人混みをかき分け、走り、人混みに押され、立ち止まり。 ようやく混雑の中から抜けた時には、白いワンピースなんて影も形も見えなくて。 「はぁ……、何やってんだろ、あたし」 降りるべき駅はまだ三つも先なのに。 見も知らぬ人の傘を持って、追いかけたりなんかして。 「バカみたい……かな」 雨だって、もうとっくに上がっているのに。 綺麗な髪の人だった。 ちょっ悲しげな顔をしてた。 泣き出すのをこらえている、ような。 一緒に乗ってきた男の人は、だいぶ前に降りていって。 捨てぜりふに「もう二度と、会わないから。じゃあな」なんて。 なんかドラマみたいだなー、なんて思ってみたりして。 女の人はすがるどころか、追いかけることもしなくて。 あらあら、結構冷え切ってたのかな、とか。 でも、そんなことは彼女の表情を見たらすぐに消えた。 だって、寂しそうだったから。 本当に欲しいものをあきらめなきゃならないような。 そんな、ふうで。 ほんの2時間前の自分のことを思い出して。 あたしもあんな風だったのかな、なんて。 だってすがりつくことなんてしたくなかった。 どうせ、もう戻ってきてくれないことはわかっているのに。 これ以上惨めになんてなりたくなかった。 だから、笑うこともできなかったけど、そのまま見送った。 それから、彼女を見て。白いワンピースと白い傘がよく似合っているなと思った。 傘を駅員さんに預けて、次の電車を待つホームの上。切れた屋根の端から、青い空が見えた。 都合良く虹なんて出ていないけど。 それでも、あまりにも良い天気で。 少なくとも、泣きたい気分にはならないよなぁ、なんて。 きっと彼女もこの空を見て、思っているだろう。 |